俳優・草なぎ剛にはいつも良い意味で裏切られる。フジテレビ系ドラマ『いいひと。』（1997年）は主人公のキャラに物語の空気感と主題歌の『セロリ』がシンクロした感じで好きだった。そのように草なぎ剛らしい物静かで善良なイメージの役柄が多かったが、『任侠ヘルパー』（2009年）や『スペシャリスト』（2013年）の頃から絶妙に“いいひと”を残しながら鋭い目で睨むキャラが増えてきたように思う。SMAP解散後に主演したNHK『未解決事件 File.06 赤報隊事件』（2018年）ではさらに深みがあった。
草なぎ剛なのか 徳川慶喜なのか『青天を衝け』は台本を超えた役作りでもう一人の主人公に
NHK大河ドラマ『青天を衝け』で主人公・渋沢栄一（吉沢亮）に大きな影響を及ぼした人物として描かれているのが徳川慶喜（草なぎ剛）と側近の平岡円四郎（堤真一）だ。『ニュース シブ5時』で10月21日、慶喜役の草なぎ剛をクローズアップしたコーナーで徳永慶喜を「もう一人の主人公」と紹介していた。
守本奈実アナウンサーが草なぎにインタビューするなかで、刺客に襲われて息絶えた平岡円四郎に徳川慶喜が駆け寄って慟哭する場面について「もしも堤さんになにかあったら…実際の堤さんと重ね合わせた」と草なぎ。これまでにいろいろ教わってきた尊敬する堤真一が亡くなったらどんなに悲しいかを想像して演じたという。
15年以上前にフジテレビ系主演ドラマ『恋におちたら～僕の成功の秘～』（2005年）で堤真一と共演した後、草なぎは2006年にシス・カンパニーの2本立て舞台『父帰る/屋上の狂人』で主演したが、そのパンフレットに掲載された堤との対談企画で「堤さん、最高だったな」とドラマでの共演を振り返っていた。別のドラマで演じる時も「堤さんだったらこういうところまで考えるだろうな」と自問するようになったそうだ。
以降も主演映画『山のあなた～徳市の恋～』（2008年）で堤と共演すれば、舞台『K2』（2010年）では二人芝居を演じた。草なぎは『シブ5時』のインタビューで「堤さんとは、自分の中でターニングポイントになる時に、一緒に仕事をさせてもらっていることが多い」と話している。
円四郎の死を知った慶喜をそのような思いで演じた草なぎ。他にも様々なシーンで「台本通りに演技してもつまらないな」と考える天邪鬼（あまのじゃく）的なところがあり、アドリブで演じて監督や演出家に「そういう形もあるね！」と認められると自分のなかで演じるのがどんどん面白くなるという。
主演の吉沢亮に撮影の合間で「ジャブ、ジャブ」とカマして現場を盛り上げる視野の広さ
『青天を衝け』で草なぎ剛と初めて共演した吉沢亮が『シブ5時』にVTR出演して、草なぎが撮影の合間にシャドーボクシングのように一人でパンチしているのが気になると疑問を投げかけた。
VTRに向けて「あ、亮くん」と笑顔を見せた草なぎは、シャドーボクシングについて「ジャブ、ジャブとやってカマしてるわけですよ」、「そこからすでに亮くんとの駆け引きがはじまっている」と答えている。シャドーボクシングだけでなく、腕立て伏せしたり小道具の銃をダンベルのように上げ下げして見せることで「草なぎさんジムに通ったりしてるのかな」とリスペクトされるのを狙っているというが、どうも本心はキャストやスタッフたちを和ませて現場の雰囲気をよくしようと気遣っているのではないか。
それは草なぎが撮影現場に入るたびに「そのシーンに合わせて照明やメイクを作ってくれるので、皆の総合パワーを感じる。皆の力は受け取ったあとはボクが頑張る」とモチベーションアップに繋げていることからも伝わってきた。
中盤過ぎてからは明治政府が中心となり陰に隠れていた徳川慶喜だが、ドラマが終盤に向かうなかで再び渋沢栄一と関わってくるという。草なぎ剛はインタビューを「最後どのようにボクが慶喜をコンプリートするのか。そこが自分自身にとって大きな課題ですし、それができると僕自身の人生も次に進めると思っている」と締めて自らを奮い立たせていた。
