声優の太田淑子さんが10月29日に心不全のため89歳で亡くなり、ドラマーの菅沼孝三さんが大腸がんで11月8日に62歳で亡くなった。正直なところお二人の偉大な業績を訃報で知ったのだが、わたしが子どもの頃から青春時代に接してきた作品に関わっていることに改めて「人は死して名を残す」という言葉を噛みしめた。
太田淑子さんはまだテレビアニメという言葉がなかった頃に放送された『ジャングル大帝』(1965年版)で主人公のホワイトライオン・レオの声優を務めたと知り、一気に子どもだった頃の記憶が蘇った。まだ幼稚園に通っていた時で声優が誰だとかは気にせずキャラクターに成り切って見ていたものだ。
『ジャングル大帝』の作者が手塚治虫さんであり、音楽をシンセサイザーの巨匠・冨田勲さんが手掛けたことを後で知るわけだが、レオの声が太田淑子さんだと分かるとさらに感慨深い。
そして菅沼孝三さんが国内外のジャズミュージシャンと共演したりサポートドラマーを務め稲垣潤一、工藤静香、吉川晃司などのライブや楽曲に参加していたというから、「ああ、わたしも知らないうちに耳にしていたのだろうな」とイメージが膨らむ。
著名人の訃報に「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」を思うことが増えた。
「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」は鎌倉時代の教訓説話集・十訓抄にある中国に由来する故事成語で「虎は死んだら立派な毛皮を残すように、人が死ぬときは名が語られるようになれ」という意味とされる。他に「豹は死して皮を留め人は死して名を留む」という場合もある。
2021年は3月に「平成の三四郎」こと柔道・金メダリストの古賀稔彦さん(享年53)、『北の国から』や『若大将』シリーズで知られる俳優・田中邦衛さん(享年88)、4月に『眠狂四郎』シリーズから『古畑任三郎』シリーズまで幅広く愛された田村正和さん(享年77)など次々と訃報が届き、5月に作曲家の小林亜星さん(享年88)、6月に「エレキの神様」寺内タケシさん(享年82)と音楽界の巨星が落ちた。
8月には上方落語界の重鎮でタレントとしても活躍した笑福亭仁鶴さん(享年84)、世界的アクション俳優の千葉真一さん(享年82)、9月には「どつき漫才」で人気を博したタレントの正司敏江さん(享年80)、GARO(ガロ)のヒット曲『学生街の喫茶店』から『ドラゴンクエスト』などゲーム音楽まで手掛けた作曲家・すぎやまこういちさん(享年90)と訃報を聞くたびに「人は死して名を残す」をしみじみ思ったもの。
むろん著名人のみならず誰しも周りから「あの人は…」と良い話が語り継がれるような生き様を目指したいものだ。