夢枕獏氏による35周年を迎えた人気シリーズの第16巻『陰陽師 女蛇ノ巻』が10月に発売された。ちょうど『秘伝「書く」技術』(2015年発売)を図書館から借りていたので書店をぶらぶらしながら「夢枕獏」名義の本を探していたら新刊のところに並べてあった。『秘伝「書く」技術』でも「陰陽師シリーズ」についてエピソードがたくさん出てくる。
死ぬほど考えてもアイデアが浮かばない時は陰陽師流で「とにかく書く」べし
死ぬほど考えた時にこそアイデアが降りてくるように思い浮かび「神を生む力」を得るような境地となることは以前に触れたが、それでも思うようにうまくいかない時は「とにかく書く」術で切り抜ける。夢枕氏は『陰陽師』などでその手を使うことがあるという。
「一行書くと次の一行が出てくる」というのだが、経験値が低い人には難く「執筆生活30年」以上の訓練を積めば誰しも出来るようになるそうだ。何事も一朝一夕に成るほどたやすくはない。
良いタイトルは強烈なインパクトかつコンパクトであるべき『バガボンド』は好例
『陰陽師』や『魔獣狩り』、『大江戸恐龍伝』といったタイトルはコンパクトながらインパクトがあり、かつ何を題材にしているかイメージしやすい。長いタイトルにする場合は内容を出し過ぎずに「何を書いていてどんな展開になるのだろう」と興味を引くことが大切。
夢枕氏が30代の時、中里介山氏の長編時代小説『大菩薩峠』(1913年~1941年新聞連載)をもとにした小説に挑戦しようとタイトルを「新大菩薩峠」と考えた。別件で編集者と会った際に、新小説の構想を話したところ「よいと思うが、まさかタイトルは『新大菩薩峠』じゃないですよね」と先に指摘されて驚いたそうだ。
編集者は『大菩薩峠』を踏み台にするのではなく、自らの力で書かないと意味がないというのだ。井上雄彦氏が吉川英治氏の小説『宮本武蔵』を原作としながら漫画のタイトルを『バガボンド』という全く違うイメージに変えた思いを考えれば分かるはずだという。わたしはこのエピソードを読んで編集者の存在を見直した。
どうやれば継続できるのか?創作者の心がけや良い文章に力をもらう
小説に限らず続けることは誰しも苦手なもの。夢枕氏でさえ執筆活動を継続する特効薬を知っているわけではなさそうだが、いくつかの大切なヒントを記していた。
くじけそうな時に自分を支えてくれるのは「ここまでやった」という小さな積み重ねによる自信だという。小さな成功の積み重ねを繰り返しながらいつか大きな成功に至るという話を聞いたことがあるが、それに近いイメージだろう。
「誰も褒めてくれなくとも、自分で褒めるくらいの自信と気概は必要」との言葉も小さな積み重ねがあってはじめて役立ちそうだ。そうやって経験を積みながら「面白がる心と訓練」によって表現力をつけることだという。
夢枕氏は表現力の手本となる「良い文章」として次の三つを紹介していた。
・坂口安吾による小説『桜の森の満開の下』
・司馬遼太郎のエッセイ『司馬遼太郎が考えたこと 10』
・宮沢賢治の詩『永訣の朝』
どれもまだ手にしたことがないので、読んでみたい。
※トップ画像は『イラストAC「読書する女性11」(作者:moomin stさん)』文中画像は『イラストAC「念を送る陰陽師」(作者:moomin stさん)』より